こんにちは、理学療法士のnaruです🌈
足の力が弱くなったと感じた時、「杖とか買った方がいいのかな…」と思う人は、結構多いのではないでしょうか。
また、自分のことでなくても、足腰が弱ってきた祖父母や両親に杖をプレゼントしよう!と考える人もいらっしゃるかと思います。
しかし、一言に“杖”と言っても様々な種類があります。
はじめての杖選びとなったら、どんな杖にすればいいか悩みますよね。
今回の記事では、用途や身体能力に合わせた杖の選び方と杖の合わせ方について、理学療法士の見方・考え方も含めて分かりやすく解説していきます!
杖の選び方
杖はいろいろな種類がありますが、形状によって適応となる疾患や身体機能レベルが異なります。加えて屋内か屋外かなど、使用する環境によっても選定する必要があります。
そこで、まずは杖を選ぶうえで大切なことを3つ解説していきます。
①支持基底面は広い方が安定する
支持基底面とは、床と接している部分を結んだ範囲(面積)のことです。杖を持たずに立っていた場合、床と直接接している両足の面積と、両方のつま先とかかとを結んだ範囲の面積が支持基底面となります。(下図の緑色が支持基底面)
簡単に説明すると、支持基底面内に身体の重心があれば転倒しません。逆に、重心がこの範囲外に及んでしまうと、転倒のリスクが高まります。
例えば、二本足で安定して立てる人でも、片足立ちをするとふらついたりよろけてしまうのは、支持基底面が足一つ分に減ってしまい、重心をそこに留めるのが困難になるためです。
つまり、転倒を避ける為にはこの支持基底面をいかに広げるか、が重要になります。
そこで重要になってくるのが“杖”です。よく『杖は3本目の足』と呼ばれますが、まさにその通りで、杖をつくだけで支持基底面はぐんと広がります!(下図は杖をついた場合の支持基底面(緑))
さらに、さきほど片足立ちをすると支持基底面が狭くなると説明しましたが、歩くという動作は片足立ちの連続動作になります。
運動学的に言うと、踏み出している足を遊脚側、地面に接している足を立脚側と呼びます。歩行においては、立脚側の方が重要となります。なぜなら、一瞬とはいえ全体重を支えなければならないし、歩くという動きの中で、足一つ分の小さな面積上で重心を保たなければならないからです。
杖は、そんな軸となる立脚側を補助する役割を担います。体重の何割かをカバーし、支持基底面を広げ、安定した歩行につなげる。それが、杖の仕事です。
②杖は自立する方が安定する
杖には自立するものと自立しないものがあります。
例えば、支柱が1本の一点杖の場合、床に接する面が1点のみで狭いため、それだけで立たせることは非常に困難です。一方、他点杖の場合は、床に接する面が3点または4点となり、床に接する面積が広がる為、安定して立てることができます。
杖自体に自立性があるということは、より体重をかけやすいということになり、歩行の安定性が上がります。
じゃあ自立する杖にすれば安定するし万事解決!…と思うかもしれませんが、自立する杖は総じて大きかったり重かったりします。安定性や固定性を上げようと思うと、それ相応に杖自体の規格も必要となります。
より安定性を必要とするのであれば自立するものを選んだ方がいいですが、長距離歩くために杖が欲しいという人の場合は、軽量の自立しないもので十分です。
③手の力も考慮してグリップを選ぶ
グリップ(持ち手)の形によって、体重のかけやすさや、腕力・握力の必要性が変わります。例えば、関節リウマチや麻痺などで握力が弱まっている場合は、前腕で支持できるタイプの杖を選ぶことで、手の負担を軽減することができます。
また、木製のグリップだと体重を掛けた時に痛かったり握りにくかったりするので、その場合はクッション性のあるグリップ(ソフトグリップやゲル状のグリップ)にした方が歩行の安定性が上がります。その他、滑りにくいカーボングリップなどもあります。
杖の種類と特徴
一本杖(単点杖、単脚杖)
その名の通りシャフト(支柱)が1本の杖で、“杖”と聞くとこのタイプの杖を想像する方が多いかと思います。
杖のグリップ(持ち手)部分は、グリップが並行で持ちやすい『T字杖』と、傘の持ち手のように丸いグリップの『C字杖』があります。
【特徴】
◯軽い
◯比較的安価で手に入る(100均でも購入可)
◯柄が入っていたり、おしゃれなものが多い
◯折りたたみ式は鞄に入れて持ち運ぶことも可能(坂道など特定の場所でのみ使う場合など)
×接地面積が小さく、安定性は低い
×杖単体で自立しないため、置き場所に困る(杖ホルダーやストラップなどで改善が可能)
【適応】
・一人で安定して歩ける人
・免荷(脚や関節に体重をかけない)を必要としない人
多点杖(多脚杖)
杖の先が複数に分かれた形をしており、接地面の数により三点杖(三脚杖)、四点杖(四脚杖)とも呼ばれます。
【特徴】
◯接地面積が広いため、安定性がある
◯杖単体で自立するため、置き場所に困らない
×一本杖より高価
×安定性が高まるほど大きい&重い
×坂道や不安定な地面で使うと、傾いて転倒の危険性がある
→不整地の安定性を補うため、支柱が可動する3点杖などがある
【適応】
・歩行バランスが不安定な人
・荷重時に下肢痛がある人(変形性関節症、関節リウマチなど)
・片麻痺患者の初期訓練
サイドケイン(ウォーカーケイン)
体の横でつくことができる歩行器型の杖で、多点杖よりもさらに安定性があります。歩行時に使える他、椅子やトイレからの立ち上がり動作の補助としても使えます。
◯支持基底面が広く、多点杖よりも安定性がある
◯立ち上がりの補助にも使える
×大きい、重い
【適応】
・伝い歩きや歩行介助レベルの人
・失調症、重度の感覚障害
ロフストランド杖(前腕支持型杖)
腕を支えるカフがついている一本杖で、前腕で支えることができるため、腕力や握力が弱くても比較的扱いやすい杖です。
また、ロフストランド杖をそれぞれ両手につくことで免荷率が上がり、下肢への負担が減ります。
◯腕力、握力が弱くても安定して歩ける
× 杖単体で自立しないため、置き場所に困る
【適応】
・腕力や握力が弱い人
・下半身に麻痺がある人、片麻痺
・手が変形している人(関節リウマチ)
松葉杖
腋窩(わきの下)と上肢で支持ができ、免荷や支持性確保の目的で多く使用されています。
しかし、使用方法を誤ると腋窩神経を圧迫し、神経障害や感覚障害が出現する恐れがあるため、使用の際には練習が必要になります。
◯片足を完全免荷することができる
△使うのにコツがいる(練習が必要)
×上肢の負担が大きい
×腕力、握力が弱いと使用できない
【適応】
・骨折等で片足を完全免荷(体重をかけないように)する必要がある人
★因みに…★
歩行補助杖は介護保険を使えば1〜3割の自己負担で購入またはレンタルが可能です!
しかし、T字杖は介護保険の対象外なので注意しましょう!
杖の合わせ方
身体能力に合った杖を買っても、使い方を間違えてしまうと十分な効果を得ることは出来ません。
杖を持つ位置は、高過ぎるとうまく体重を乗せることができず、逆に低過ぎると腰が曲がったりなど歩き方に悪影響が出てしまいます。
使う前に、しっかりと体に合った高さに調節しましょう!
※一本杖には高さ調節が出来ないものもあります。購入前に確認しましょう!
基本の杖の合わせ方
直立姿勢(気を付けの姿勢)で、前方に15cm、外側方に15cmの位置に杖をつき、肘が軽く曲がるくらい(20〜30°)の高さが、もっとも体重がかけやすい高さになります。
その他
・大腿骨大転子部の高さ
・親指の下の“茎状突起”と呼ばれる手首の骨が出っ張っている所
・身長÷2+3cm
などで合わせる方法もあります。
しかし、最終的には本人が1番使いやすいと思える高さがベストです。
一度、上記の基準に合わせてみて、少し高くしたり低くしたりして、自分が使いやすい高さに合わせましょう。
松葉杖
松葉杖は杖の上部の高さと、握り手の高さを合わせる必要があります。
杖の上部は、松葉杖の先端を前方に15cm、側方に15cmの位置に杖をつき、松葉杖の上部が腋窩(わきの下)から5cm程度下にくるような高さに合わせます。
握りはT字杖同様に、手首の高さ、または大腿骨大転子の高さに合わせます。
※松葉杖の上部は、高過ぎると腋窩神経を圧迫し、神経障害や感覚障害を引き起こす恐れがあるため、腋窩で体重を支えないように注意しましょう。
まとめ
今回は、正しい杖の選び方と合わせ方について解説しました。
◎身体能力や生活環境に合った杖を選ぶ
一人で歩けるけど不安がある場合はT字杖、T字杖では少し不安定で軽く体重をかけたい場合は多点杖、免荷目的ならロフストランド杖や松葉杖など、身体能力に合った杖を使うことで、歩行の安定性は高まります。また、屋内で使うのが屋外で使うのかなど、使用する環境によっても杖の選択は変わってきます。
◎ 杖は最も体重の乗せやすい高さで持つ
杖が高過ぎても低過ぎても、歩き方に悪影響が出てしまいます。
実際に杖を持ってみて、肩が上がったりせず自然と体重がかけられる位置に調整しましょう。
杖は正しく使えば歩くのが楽になったり、歩行の安定性が高まりますが、能力に合わない杖を選んでしまったり、高さ調節を誤ると十分な効果を発揮しません。
安定した歩行ができるように、体に合った杖を使いましょう。
次の記事では、正しい杖の握り方や使い方について解説したいと思います。
以上、最後までお読みいただきありがとうございました🌈